時の雫-紡がれていく想い

零度の距離 -1


§9

 廊下を歩いていて目にした光景があった。
私は教員室からの帰り道で、彼は移動教室だった。
 いつものメンバーと向かっている彼はその中でも後方にいた。
すれ違い様に他のクラスの男子が言葉を放っていく。
その内容は今噂になっている1年の松内さんとを冷やかしているものだった。
 彼の顔は途端に不機嫌になった。遠目に私が見ていても分かるほどに。
多分、池田君たちも彼の様子に不安を覚えて表情を凍らせていた。
でも、彼がいる後ろを振り向けないようで、何やら緊張が走っているように見えた。
 私がそんな彼を眺めていると、距離が近づきもう少しすればすれ違う所で私に気づいた。ふっと目が合う。すると、彼は「困っているんだ」と言いたげに苦笑した。
それに私も苦笑で返した。お互い言葉は交わさなかったけど。
 心の中には違う感情が漂っていた。それは不気味な沈黙で、形容しがたい負の感情だった。
それらに全てを囚われそうになった時、一筋の光の様にポケットの中身を思い出す。

 今私のスカートのポケットの中には家の鍵が入っていた。
いつもなら、カバンの手さげの所に括りつけた巾着の中に入れているもの。
だけど今は違う。それは宝物の様に、お守りのように肌身につけていた。
 ……やっと、彼から貰ったキーホルダーを家の鍵につけられたから。
そんな事、彼に伝える事は出来ないけど、ここにあるという事が今の私には大事だった。

 そして、私の中に潜む陰は取りあえず消えて無くなるから。



 今流れている噂と言えば、テニス部の二人の事だった。
瀧野くんと1年の松内さんのこと。
耳にしたくなくても、教室にいれば嫌でも耳にその話が入ってくる。
 彼女たちはその事を、ナミちゃんに聞かなくても他の二人に訊いていた。
でその二人は言う。
「あれは一方通行だね」
その言葉に、私は過去の自分を思い出して胸が痛むのだけど。
 学校生活の中で、偶然に松内さんとすれ違う事も幾度かあった。
気にしていなくても、目は勝手に松内さんを追っていた。
でも、ただそれだけだった。
だけど、彼女はそんな反応じゃない。きついとも言える眼差しを向けてくる。
それに内心戸惑っているうちに、彼女は言葉なく目の前を通り過ぎていく。
 冷静に考えても、そうなるんだろう、と思う。
彼女は、私が彼と一緒にいるのを何度も見ているはずだし。
それに私と彼とが前は噂になっていたんだから。
……面白くない事だから。それは彼女だけでなく、彼に恋している人なら誰もが。
 そして、私はその事実に身震いする。襲い掛かろうとする不安と恐怖に。
自分の置かれている立場を冷静に考えてみると恐ろしいものが過ぎっていく。
そうして、心のどこかで私は怯えている……。
平穏な時間を過ごしている今が、嵐の前の静けさに思えて。



 昼休み、図書室にいさちゃんと居た。
何か用事がある訳でなくても、いさちゃんと一緒にいるのは好きだった。
「そう言えば、あのてこずっていた数学の問題どうなったの?」
急に言われたそれに、私の心臓はドキッと鳴った。
なぜかうろたえた。けど、それを胸の奥に押しやって、いつもどおりを装って答えた。
誤魔化すのもおかしいし、嘘を言う事でもないし。
「ああ、あれねー、月曜の放課後にここで解らなくて悩んでたら偶然瀧野くんが来てね、教えてもらったらすぐ解けたよ」
「へー瀧野君がねぇ」
けど、いさちゃんの反応は何か言いたげで、変に私は緊張した。
そして、他に何かを聞かれるのが怖く感じて、もうそろそろ次の体育の授業の為に髪を結わなくちゃといけないな、と思っていたからこう言った。
「そう言えば次体育だったよね」
「あ、そうだ。春日ちゃん今クシ持ってる?」
「うん、持ってるよ」
話が変わってほっとした私だった。
ポケットからクシを取り出して渡そうとした時、何かがカシャン、と音を立てて落ちた。
その時は何の音だか分かっていなかったんだけど、いさちゃんがすぐに顔を向けて拾い上げてくれた時、はっとした。
「春日ちゃん落ちたのこれみたい。これ、キーホルダー?」
「あ、う、うん」
それは最近になってポケットに入れて持ち歩いていたものだったから。
「へー、かわいい」
瀧野くんが作ってくれたキーホルダー。
自然と私の額には汗が浮かんでいた。どうしよう、何て説明しよう、とうろたえていた。
そのまま何も言わず、すっと返してくれる事を祈るように思った。
だけど、いさちゃんはそれを見つめたまま言った。
「これって、男子の選択科目の、技術の課題のヤツだよね。クラスの子もカレシに作ってもらったりしてたから知ってるんだけど」
「あ、それはね、前に生徒会で亮太が話してて薫ちゃんがキーホルダー欲しいって言うので作ってあげる話になった時に、私もいいなぁって言ったら、亮太が丁度そこに来た瀧野くんに作ってやって、みたいな話しになって……」
実はこの話、誰にも話していなかった。いさちゃんにも話せなかった。
何か変な風に思われるのが怖くて、話せなかったんだ。
いさちゃんの事を友達に思っていないとか、そういう事じゃなくて……。
弁解するように心の中でそう思っていた。
「で、瀧野君に作ってもらったんだ」
「うん、そう」
「私、そんな話聞いてないなー」
胸にグサッとくる言葉だった。しどろもどろになりながら私は言う。
「いや、だってそれは学祭の準備期間の事だったから、忙しくて忘れてただけで」
「そうなんだ」
「うん」
必死で頷いた私に、いさちゃんはキーホルダーを返してくれて、何事もなかったように髪をとかし始めた。
……良かった。
そう安心した私は、手に戻ってきたキーホルダーを見つめてから、ポケットにそっと戻した。
家の鍵だから、戻ってきて安心したんじゃないという事は自分でも分かっていた。
……だけど、それだけだった。

 図書室からの帰り道、何気なく顔を向けた校舎と校舎の間。
そこで目にした光景に私は足を止めた。
日常生活の中で、私があの子と関わりを持つ事はないだろうと思っていた。
もとより接点なんていうものはなかったから。
他の人なら、この場面を見ても気づかなかったフリをして通り過ぎてしまうかもしれない。だけど、他の人ではなく私だった。そして、私は気づいてしまった。
いさちゃんを巻き添えにはしていけないと「ごめん、ちょっと待ってて。何だったら先行ってて」と言い、急ぎ足で向かった。

 その校舎の間の奥に、女子が固まっている。その間から見えたのは松内さん。
とても険しい顔をしている。
ぱっと見ただけで、それがどんな状況なのか分かった。
松内さんを囲んでいる人数は10人近く。その中には同じクラスの子の顔もちらほら見える。いつも何かと瀧野くんたちの話をナミちゃんたちに訊いてくる子達が。
その子達は、以前、瀧野くんに聞いてきて、と頼んだ人たちだった。
今私が出ようとしている行動は、前の時のようには済まないだろう。
確実に彼女たちとの間に強い何かが生まれるだろう。
……覚悟を決めるように静かに息を吐いた。

ある程度近づいた所から、彼女たちの会話が聞こえてきた。
その内容は予想通りのもので思わず心配になって松内さんに目を向けた。
けれど、彼女は凛とした態度で言ってのけた。
「当の本人に言われるなら解りますけど、他の人間にとやかく言われる筋合いはないと思います」
その台詞は彼女たちの不評を買うには十分なものだった。
次から次へと出される罵る言葉。
訊いているこっちが思わず顔を歪ませてしまうと言うのに、松内さんはその体に力を入れ負けじと彼女たちを睨み付けている。
思わずそれに感心した。
でも、彼女たちにはかえって逆効果にしかならないだろう。
嵐の前の静けさが訪れた時、私は急いで足を進め、その場を終わらせるつもりで声を放った。
「ごめん、ちょっとその子に用があるんだけど」
それで一斉に注がれる視線。
私の心に怖じる気持ちはなく、また負ける気持ちもなかった。
だから自然と私の目はきついものになっていたはず。
先頭を切るように前にいた一人が、喧嘩を売るような態度で言ってきた。
「この子に用事があるって何の?」
私は余裕をもって言った。彼女たちは知らないであろう事実を。
「柔道部3年の松内主将の妹さんに私は用事があるの。そこの松内さんのお兄さんって血の気が多い人で熱血漢で妹が可愛くて仕方のない人だから、妹さんの方から頼んでもらいたい事があって」
「なんでお兄ちゃんの事知ってるんですか?!」
それは松内さん自身も驚いたようだった。
私は自信を持った笑みで言った。
「そりゃ知ってるよ。生徒会役員は各クラブに顔が利くので3年の方とも顔見知りです」
それは権力の誇示だったけど、彼女たちを大人しくさせる一番のものだった。
これらを言っておけば、彼女たちはこれからもう下手に手出しをしてこないだろう。松内さんにも。
予想通りの反応で彼女たちは蜘蛛の子を散らすようにその場を去っていった。

最悪な結果にならなかった事に安心をして息を吐いた。
「暫くは一人で行動しないほうがいいよ?あの子達テニス部の追っかけみたいなものだから」
そう言っていても、松内さんからは重い空気が流れてくる。
返答する気がないんだろうと思った。
「じゃあ、お兄さんによろしくね」
笑顔でそう言って松内さんを見た。やはり反応はなく私はそのまま行く事にした。
だけど、急いで行こうとした時、止める様に後ろから声が飛んできた。
「待ってください!!」
松内さんの強い声に足を止め、「何?」という顔を向けた。
 ぎゅっと力を入れたままの表情で、離れた筈の距離をある程度まで縮めると、強い意思が宿った目を真っ直ぐと向けてきた。
「私、あなたに助けを求めた覚えもないし、言った覚えもありません!」
何を言われるんだろうとは思った。それがお礼ではない事だけは分かっていたけど、でも、不快な気持ちにはならなかった。
松内さんの事を考えれば、そう言われても不思議ではないから。
はっきりとそう言葉で伝える事ができる松内さんを悪くは思わなかった。
反対に気持ち良い位だった。
「うん、求められてないよ。気にしないで。私の独断でした事だから」
笑顔と共に言った私のその台詞に、松内さんの瞳に戸惑いが見えた。
言った台詞は本心だった。
彼女には理解されない事でも、私にはそれはそれでよかった。
思わず零れる笑み。そして私はいさちゃんの所へ向かった。
 彼女を助けようと心底思った訳じゃない。
ただ、私が嫌だったから。それだけ。多分、こんな思いは理解してもらえないだろうけど。
彼女にとっては余計なおせっかいで、又嫌われる理由になるかもしれないけど。
私は私だから、自分のした事を失敗したなんて思わない。
見ないフリをして素通りすれば、きっと後悔してたと思うから。


 放課後、生徒会室で仕事をしている時も、私の頭は松内さんの事を考えていた。
それはぼんやりとで、深く何かを思っていた訳ではない。
ただ、松内さんの強さが羨ましいと思っていた。
今、噂になっている松内さん。
私の中でも松内さんの事は強く印象に残っている。
それと同時に浮かぶ彼の顔。
松内さんの話が出れば、彼の表情は忽ち変わってしまう。
その顔を見るのが、私には何だか辛くも感じた。
それが何でなのか分からず、又考えられず、気分ばかりが淀んでいた。
 気がつけば今日の仕事は終わっていて、後は帰るだけになっていた。
明日は球技大会。今日の最終打ち合わせは明るい時間に終わった。
あと会議室に残っていたのは、2年の実行委員だけ。
その最後の一人も今帰宅についた。
一人になった私は、会議室の片づけをして窓の戸締りも確認。
後は会議室を出て鍵を閉めるだけ。
そう思って何気なく目を向けた先に置きっ放しになった袋に気がついた。
「忘れ物?」
手に持って袋の外側を見ても持ち主の名前はない。
「すいません、中見させてもらいます」
黙って触れるのも悪い気がしたので声に出してそう言った。中に入っていたのは、技術科の道具。それだけで男子のだと分かる。
箱の外側を見れば、瀧野くんの名前が書いてあった。
「……瀧野くんの」
一瞬、どうしようかと思った。
そしてすぐ頭に浮かんだ。今の時間なら、まだ部活をしているだろう。
このまま生徒会室に置いて明日返すのが妥当だと頭は判断した。
だけど、思い出した事があった。
中学の時、忘れ物をして取りに来た私が教室の扉に鍵がかかっていて困っていた時、週番で見回りをしていた彼は声をかけてくれて鍵を貸してくれた。
今日、練習終わってから思い出して取りに来るかもしれない。
誰か生徒会役員がいるかもしれないし、と。
そうしたら、無駄足になってしまう。
後は生徒会メンバーで明日の進行と役割の確認をすれば解散になるから。
彼の顔を思い浮かべたら、もう届けに行く事は決めていた。

下駄箱に皆で向かい、靴を履き替えた所で薫ちゃんに声をかけた。
「私、ちょっと用事あるから向こう行くね」
「うん、又明日ねーバイバイ」
「ばいばい」
俄かに心臓は小さくドキドキといっていたんだけど。
それを気にしないようにしてこっそりテニスコートへ向かった。
生徒会の仕事の時でも、練習している時にテニスコートに行った事は殆どなかったから。
 足を動かしながらも、本当は引き返して帰ろうかと何回も思った。
練習中に行っていいだろうか。迷惑をかけないだろうか。そう不安を覚えた。
行くんだと心決めても、どうしても迷いが生じていた。
気を抜けば、勝手に指先が緊張で震えてしまう。
落ち着かせるように息を吐いてから、忘れ物を届けるんだと顔を正面に向けた。
グランドを半分越した所で、こちらの方向へ向かっていた谷折君に会った。
丁度良かったと思ったんだ。
これで、消し去っても消し去っても生じてくる不安が解消されると思ったから。
谷折君は、珍しくこんな所にいる私を不思議そうに眺めていた。
「あ、瀧野くんいる?これ忘れていったみたいなんだけど」
その疑問を解消するかのように私がそう答えると谷折君はすぐさま笑顔で返してきた。「コートにいるから渡してやって」
それだけ言って谷折君は行ってしまった。
まさか、そう返答が返って来るとは思わなかった。
ちょっとは、預かってもらえる、と思ったんだけど。
仕方がない。自分で行くしかない。
ここまで自分が選んで来たはずなのに、何故だかまだ迷っている私だった。
コートに行く手前の所で、テニス部女子が短距離競争をしていた。
その光景を私は懐かしく感じた。中学の時、陸上部の練習でもやっていたから。
そうしている時に、ナミちゃんが私に気づいて声をかけてくれた。
「あ、春日ちゃーん、どうしたのー?」
大きな声で彼の名前を出すのは憚られた。それだけで注目を浴びてしまうだろうから。「あー、ちょっと男子の方にお届け物―」
そして、バイバイと手を振り合ってお互い視線を外した。
男子がいるコートに顔を向けようとしたところで、向けられている視線に気づいた私は呼ばれるように目を向けた。それは松内さんで、とてもキツイ眼差しだった。
彼女の私を見る目は変わらない。
……瀧野君の所にお届け物。またそれだけでも凄い目で見られるんだろうな。
その時そう思っていた。
その後、「スタート」という声が聞こえたかと思うと、スタート地点に立っていた5人が一斉に走り出した。そちらの方へそっと目を向けると、その中で1着をとった松内さんが見えた。頑張るその姿に微笑ましい何かを感じてしまう。
私一人の勝手な思いだと分かっていても、顔には笑みが浮かんでいた。
その中には羨ましいと思う気持ちが存在しているのだけど。

私は、コートの入り口には行かず、途中の所で足を止めた。
丁度フェンスを背に立っている人がいたから。
入り口に行って、直に瀧野くんを呼ぶ事に抵抗を感じたんだ。
注目を浴びるのが嫌で、私の心は何かに怯えていた。
何をどう言葉にして良いのか戸惑ってしまって、どもってしまった。
「あの、瀧野くん、は?」
気づいてもらえなかったらどうしようかとも思ったんだけど、そこに立っていた笠井君は顔を向けてくれた。
私を目にした途端、少し驚いていたのはなんでだろう?
「いるよ、ちょっと待って」
それでちょっと安心した私。
笠井君は瀧野くんを呼んでくれて、余計なことは言わず指だけで示してくれた。
それだけでも恩に着る思いだった。
その後、すぐ来てくれた瀧野くんに忘れ物を差し出して言った。
「これ、会議室にあったから」
余計なおせっかいだったかな、と思いながら。
だけど、彼はすぐ笑顔で言ってくれて、内心ほっとしたんだ。
「忘れてた、ありがと、わざわざここまで持ってきてくれて」
「ううん、いいよ。気になったから」
「今から帰るの?」
「うん」
「そっか、気をつけてね。これありがと」
彼のその笑顔に嬉しくなって笑顔になった。それはまるで彼の言葉に返事を返す様に。
そこで、注がれている視線に気がついた。
痛いくらいの視線。何故だか練習しているはずの男子テニス部員がこっちを見ている……。
思わずぱっと顔を伏せてしまった。
凄く恥かしく感じてどうしよいか分からなくなる。
そうしたら、目の前にいる瀧野くんにどんな反応を返せば良いのか分からなくなって。
ここにいるのが辛く感じてきて、戸惑いながらもどうにか笑みを浮かべて小さく手を振って言った。
「じゃ……」
彼は変わらない態度で「うん」と笑顔で小さく手を上げて返してくれた。
だけど、恥かしくて早くこの場を離れたくなっていて、急いでこの場を後にした。
何なんだろう……。あの注目は?
そう言えば、笠井君も驚いた顔をしていたけど、何かあるんだろうか?
私の名前を口にしなかったのも、そういう理由からなんだろうか?
よく分からなかったけど、困惑に満ちた私は何も考えられなくなっていてただ急いで家に帰った。



そして、次の日には球技大会。
その日もいつもと変わらない朝が始まった、はずだった。
何かの行事の日には朝一番に朝礼が行なわれる。
それから教室に戻ってそれぞれが体操服に着替えると各出場競技場所に移動だった。
私は取りあえず生徒会役員が集う場所に向かっていた。それはグランドにある。
その途中でいさちゃんを見つけ、お喋りを楽しみながら歩いていた。
そこまでは普段と何も変わらなかった。
「春日さん!」
突然聞こえてきた強い口調の声に、私はストップをかけられたみたいに足を止めていた。
振り向かずとも分かる。松内さんだ。
振り向いて見れば、やはり彼女は強い眼差しで真っ直ぐと私を見ている。
その両脇には友人二人が立っている。何かあったら止めようとしているように見えた。
いさちゃんと朝の挨拶を交わした松内さんは、再びきっとした目を向けて言った。
「春日さんは、何の競技に出るんですか?」
それを何故聞かれるのかは分からなかった。
「……バスケ、だけど」
「……あなたには、負けませんから」
それは挑戦的な目だっただろう。そう言った松内さんは、すぐさま早足で体育館に向かっていった。
彼女が言った台詞の繋がりが、最初のうちはわからなかった。
驚きで頭が止まっていたから。
その後、体育館に行って3試合目になってから分かった。
対戦相手に松内さんの姿があった。
彼女は宣言どおり勝ち進んでいたみたいだった。
彼女もバスケに出場なんだ、単純にそう思っていた。
でも、そんなにも敵対心を燃やされる理由が分からなかった。
あの時、助けに出た私が余程気に食わなかったからなのだろうか。
自分だけでこれだけやれるっていう強さを見せるために、今敵対心を燃やされているのだろうか。
私はただ安穏な生活を送りたいだけなのに。

 試合が始まると、「負けませんから」という言葉通り、彼女は私をぴったりとマークしていた。それはほとほと感心してしまうくらい。
私は身動きが出来なくて、試合中の息つく暇も与えない彼女のタフさには驚きだった。
これじゃあこの試合はボールに触れないで終わるかな、なんて思った時だった。
ボールに目を向けたら、私の右方向に飛んでこようとしていた。松内さんがいるのは左方向。隙を見せればいけるかも。そう考えて、まだ一度もボールに触れていないこの試合、強気で出ることにした。
左に重心をかけて動きを誘った。それに左方向へ足を運ぶのを目の端に捕らえてチャンスをものにするべく動いた。
離れて床に着いたボールをそのまま手に取り、顔はゴールに向けシュートを。
だけど、すぐ体勢を整えて松内さんがきた。
押してダメなら引いてみろ。
昔、バスケットボールの試合を見て憧れたフェイダウェイシュート。数え切れないくらい練習してお尻をぶつけた。それはいくらやっても成功しなくて、出来ない事に悔しくて涙を目に浮かべた事もあった。
瞬時の判断でやっただけだった。やっぱり着地は失敗してお尻を打った……。
静かになった体育館。瞬後、歓声に声が上がった。
お尻を着いたままの格好で目を向ければ、ボールはゴールから落ちるところだった。
まさか本当に入るとは思わなくて。
これが同点になり、時間も終わってどちらが優勝決定戦に出るかフリースロー勝負になった。
さっき決めたから当然のように私に任された……。
「春日ちゃんよろしくー」
「え?私?」
「そりゃあ、あれを見せられちゃ他はいないでしょ」
「あんなのまぐれだよ?」
「いーからいーから」
皆に押し出されるようにしてシュート位置に出た。
あれは本当にまぐれなんだけど。
相手は松内さんが出てきた。やっぱり怖い顔してる……。
参ったなあと思っていたら審判が言ってきた。
「どっちから投げる?ジャンケンする?」
先に投げようが後に投げようが結果は同じ気がして言った。
「私は後でも先でもどっちでもいいよ。好きな方どうぞ」
私の言葉に松内さんは即答。
「じゃあ、先で」
大概の人なら「後」と答えるだろう。彼女の強さには本当感心する。
松内さんがシュート位置に着くと、辺りは静けさに包まれた。
凄く嫌な瞬間だった。プレッシャーが重くのしかかる。
松内さんの1回目は失敗に終わった。
次は私。
シュートを打つまでに時間を取ると余計に緊張する。それなら狙いを定めるより即座に投げた方が気が楽だ。そう思って、ゆっくりと弾ませたボールを両手に受けてそのままゴール目掛けて放った。
ぽすん……、という独特の音。
あ、入った。
そう思った瞬間、周りから上がる声。
私はこの時が一番やりにくい。
 2投目。松内さんはキツイ表情のままボールを放ちゴールに入れた。
私の2投目は、1投目のようにいかなかった。
痛いくらいの視線が、私の集中力を乱していく。たまらず出るため息。
ああ、ダメだ。狙えない。雑念が頭をかき乱す。
時間をこれ以上取る事にも焦りを感じて、諦めてボールを放った。
そんなシュートは成功するはずがなく、見事に外れた。
「外れちゃった」
ため息混じりに頭をぽりぽりと掻きながらそう呟いた。
3投目も私は失敗に終わった。松内さんは成功していた。
 そのまま整列になり礼をして試合は終了。
「ごめんねープレッシャーに負けてしまいました」
「仕方ない仕方ない、上出来上出来」
そう言ってくれたクラスメートに救われていた。
 正視はできなかったけど、松内さんの顔が納得の言っていないモノだった事に気づいていた。その理由は何も考えなかった。


あと残っているのは生徒会の仕事だけになった。
それも今は時間が空いていた。
何となく本部に向かうのも気が進まなくて、どこか見に行こうと思ってぶらぶらしていた。
「よし、グランドいこ」
下駄箱に行き、外靴に履き替えるとグランドに向かった。
結局、別に見たいものは思いつかなかった。だから、時間より早かったけどグランドにある本部に行こうと思って。
向かってみて気になった光景。
人だかり。そこはソフトボールの試合が行われている。
気になったので見に行ってみる事にした。
「ねぇ?どこのクラスが対戦してるの?」
とりあえず近くに居る一人にそう尋ねた。
すると、その男子は必死で試合状況に目を向けながら言う。
「2年4組と7組」
「ありがと」
教えてもらった事にお礼を言い、背伸びをして目を向けてみても、試合の様子は他の生徒の姿で遮られていて見えない。
こういう時、背が高いと得するんだよね。なんて、どうでも良い事を思っていたら、声を上げられた。
「あ!春日さん!」
一瞬にしてその場の空気が変わった。
何?
私が何?そう思っていたら笑顔で内藤君と池田君が現れた。
「春日さん、折角だからこっちにどーぞ」
「ささ、どーぞどーぞ」
「え?え?別にそんなつもりは……」
「いーからいーから」
「応援に寄ってくれたんでしょ?」
え?応援というか、その……。
本当のことは口に出せなかった。なぜか。
背中を押され、池田君に腕を引っ張られて彼らのクラスメートがいる場所に移動させられた。当然、彼もいる訳で……。
この光景を見ても、誰も何も言わない。
それを疑問にも思ったけど、私に目をむけた瀧野くんが途端に笑顔になったのを見て何も考えられなくなった。

 見た所、4組が攻撃で、7組のピッチャーに目を向けるとマウンドに立っているのは片岡君だった。それだけで嫌な気分になるのはなんでだろう?
そんな私をよそに内藤君と池田君が話している。
「こっちに春日さんがいてくれたら、それだけで4組の勝ちだろう」
「あ、気付いたみたいだぞ。悔しそうな顔してら」
瀧野くんは後ろ手にグローブを持ち、足を交差させて立っている形でマウンドに顔を向けていた。
何?私が何だと言うの?
雰囲気的に何かあるという感じ。
我慢できずに私は聞いた。
「なんで?」
「……知らない方がいいと思うよ」
けど、目をチラリと向けてそう言うだけの瀧野くん。
そう言われると余計気になるんですけど?
言ってくれないかなー。という顔をじーっと向けて見た。
それに気づいているはずなのに、瀧野くんは「ん?」という気づいていない顔で笑顔を向けるくる。
こういう時の彼の笑顔を見ると何もそれ以上言えなくなる……。
聞くな、と言われている。また、いくら聞いても教えてくれないっていう事も分かっているから、違う事を聞いてみた。不本意ながら。
「今何対何?」
それにも彼は笑顔のまま。この人、実は手強い?
「1対0で負けてます。残念ながら」
「うーむ……」
喜ばしくはない状況にマウンドにいる片岡君に目を向けて見た。
様子を見て思わず腕を組んで呟いていた私。
「いいボール投げるなぁ。バスケ部なのに」
「だろ?お陰で点にならなくてな」
「そっかー」
瀧野くんの言葉に素直に頷いてしまう。
そして、頭に浮かぶ考えに恐る恐る聞いてみた。
「……って、4組負けても私被害被らないよね?」
すると、彼は視線を逸らした。
「うーん、……多分」
断定じゃないその台詞に、拭いきれない不安が身を過ぎる。
理由は分からないけど、ひしひしと感じる視線の集中……。
この場所に来てから疑問になったことを頭に浮かべて考えていたら、つん、と彼の指が額に当てられた。
「しわよってる。似合わないよ」
はっとして目を向けた私。優しい声に彼の笑顔。何を考えていたか一瞬にして忘れ去ってしまうくらいの……。
彼は何事もなかったように又マウンドに目を向けていた。
彼の指の感触が残る額に手を当てずにはいられなかった……。
そして、心臓がちょっとドキドキ言っていた……。

 ふと、視線を感じて目を向けると、池田君がこちらを見ていた。まるでずっと見ていたかのような目線に、何もなかったように私は聞いた。
「片岡君のボール、当てる事できた?」
「一度ヒットは出したんだけど」
それだけでも凄いなぁと思って笑顔を向けていた。その瞬間内藤君が言ってきた。
「え?何々?バットに当てたら何かくれるの?」
そんなつもりはなかったけど、そう言われると答えてしまう。
「当てたくらいじゃ駄目だよ。せめて外野まで飛ばして、キャッチされなかったら」
「えー?で、それが出来たら何くれるの?」
期待に満ちた目に考えて見て頭に浮かぶものといえば……。
「えーと、……そうだなぁ、私が作ったのでよければ、今日のお弁当のサンドイッチとか」
すると途端に内藤君は笑顔になって言ってた。
「OK!サンドイッチ好き!よーしやる気出てきた」
「俺もがんばろ」
と池田君も。冗談と取る事はなくて本気の彼らに思わず苦笑い。
でも、片岡君のボールは簡単に打てるほど優しいものではなかった。
池田君がヒットを出して塁に出る事はできたけど条件は違うから。
「外野、飛ばしたら春日の弁当食べれるんだよな?」
その言葉に彼に目を向けるときっちり目が合った。
彼は私を見ていたらしい。そんな事実にうろたえながら言った。
「う、うん。キャッチされなかったら、だよ?」
「うん、当たるといいな」
そう笑顔共に言い残して言った彼はバッターボックスに向かっていった。
その言葉に心臓がさわがしくなった。特別な言葉じゃない。だけど、気になった。
気になって仕方なくて、答えが得られる訳じゃないのに彼の背をずっと見つめてしまっていた。
彼の存在に心が侵食されそうになっていた。
他に気持ちを向ける余地がなくなってしまいそうなそんな予感を感じた。
心の奥で何か音をたてている。それはまるで危険信号。
分からない何かに奔流されそうで怖く感じた。
吸い寄せられるように彼をずっと見つめていた。
彼の姿を通して片岡君を見ると、明らかに表情が変わった。
瀧野くんを見て本気にでもなったような、余裕のない表情だった。
だけど、瀧野くんの方はいつもと変わらない冷静な様子。
そんな姿に実はどきっとなったのも事実。冷静に見てもカッコイイと思う。他の子が騒ぐくらいに。
でも、私の頭は冷静だった。
二人の間には重苦しい空気が流れている。辺りの、観客達の様子も違う。白熱した試合を食い入るように見るのとは違う真剣さがあった。
まるで面白いものを見ているような感じ。
この様子に頭に浮かぶ事。私、又何か賭けの対象にされてるんだろうか。今度は私の知らない所で。
心はそれを否定したくて仕方がない。
救いを求めるように私は彼に目を向けた。
いつもと変わらない様子にも見える瀧野くんだった。でも、なんかやっぱりいつもと違う。何が違うのかと聞かれると答えに窮してしまうけど。

 そして、渾身の力で投げられた一球目。不気味に静まり返ったこの場。明らかに様子が違う。それを肯定するように観客の中から、何かのひやかしで「ひゅう〜」と口笛が吹かれている。
明らかにこれは違う。普通の試合でこんなふうにはならない。
近くにいる人に目を向けてみても、試合の様子を見ているだけで誰も何も言わない。
自分の体が不安に固まっているのを感じながら彼に目を向けた。
軽くバットをスイングして構えたのを見て、2投目を用意する片岡君。
たまらなく嫌な空気だった。私の目は二人から離れなくなっていた。
投げられた2球目に動いた彼のバットは芯を捉えずトーン、と地面に落ち転がっていった。ファール。自然と体に力が入る。
バットを構えつつ息を吐いて何かを呟いたのが私の所からでも見えた。
でも何を言ったのかは分からない。
そして次に見えたのは、彼の目。迷いのない目。
放たれた3投目に思い切り振られたバット。
「あ!」
思わず私は声を出していた。
「わーいった」という他の人の声。それは見事だった。
私の言った条件を見事にこなした彼。
あの早いボールを打った事だけでも凄いと思う。タイミングばっちり合っていた。
「うーん、やっぱりテニス部は打つタイミング分かってるなぁ」
感心してそう呟いたんだ。……そしたら、俄かに騒がしくなっていた周りが急にしん、と静かになった。そして、視線を感じてぎこちなく周りを見ると、皆、何か言いたげな様々な視線を私に向けていた。
その意味が分からず、反応も出来ず、とりあえず顔を伏せた。それしか出来なかった。
疑問に思っても答えてくれる人はいそうにない。聞いたとして、何を言われるか分かったもんじゃない。ただ、この場にいる事が辛く感じてこっそりと離れた。
このまま、ここにいたら余計な何かが起こりそうな気がして……。
……何があったというんだろう?
急ぎ足で校舎に近い方の在る本部に向かった。
心臓が落ち着かなかった。ちょっと息切れ状態で辿り着いた私は亮太に声を放っていた。
「ねぇねぇあそこのソフトやけに盛況」
「んあ?……ああ、あそこな」
現場に目を向けた亮太は表情を変える事無く淡々と言った。
「何?」
「まぁ、試合前に何か揉めてたみたいだからなぁ」
「……。それって4組と7組の?」
不安的中。確認するように私は聞いた。
亮太は手を止める事無く答えた。
「あー、そこらへんのクラスか」
「原因は?」
すぐには口を開こうとしない亮太だった。
「……知らない方がいいってこともあるだろ」
「何それ」
思わず低くなる声。不機嫌になる顔。
私の思いとは別に、顔を向けない亮太。明らかに言う気がないのだと分かる。
きっとこれ以上何を聞いても話してはくれないだろう。
彼といい亮太といい、何か私は不愉快だ。
 ちょっとそんな事を思えば、もうムカムカしてきた。
その後、試合を終えた瀧野くんが結果を報告に7組の子とやって来た。
私は不機嫌のまま仕事をしていた。
誰かと話をする気にもなれないまま黙々と手を動かして。
 今、顔を向ければきっと嫌な自分を吐露してしまう。
そうしたらきっと後で後悔する羽目になるから、今は耐える。
 気分は不機嫌なままで、彼の背中に目を向ける事もなく黙々仕事した。
まるで荒れているような心だった。ムカムカする気持ちが沸々と沸いて来る。
何が悪いのかは分からないままだけど、こんな気分になる理由はそんな事じゃなかった。
自分が関わっているであろう事に、まるでのけ者にされている感がとても嫌だと感じた。
周りの目は確実に、私が関係していると言っているのに、それを知る当事者達は何も言ってくれない。それが怒りになって表れていた。
湧き出る怒りを仕事に向けて寡黙に手を動かしていた。
亮太はそれを分かっている様子で、私には近づこうとも話しかけようともしなかった。ある意味賢明な奴……。
仕事をずっとしていると、不思議なもので一時は爆発しそうだった怒りも大分治まっていた。
一息つくように手を止めた時、私の目は無意識にグランドに向けていた。
今はもう違うクラスが試合をしているソフトボールの方に。
 そして、彼の顔がふっと頭に浮かんだ。
「……知らない方がいいと思うよ」という彼の言った台詞と共に。
相手は片岡君。学祭の時も彼に助けてもらった。何故だか試合を頼んだ理由まで彼は知っていて……。
……今回も、きっと何かあったんだろう……。
彼は意地悪とかでそう言う事を言う人ではないと思うから。
無条件でそんな考えに至った。
そう思うと、今までの不機嫌が嘘のように静まっていった。
それは不思議な感情だった。彼にそう思った途端、心が穏やかになった。
 ぱっと光が燈ったような感触を胸に感じた。
それに心がはっとする。だけど、私は知らないフリをする。
目を逸らすように頭は他の事を思い出した。
 今日の私のお弁当を戦利品にしたんだった。
今日に限っては自分で作ったもの。それは妹の為に早起きをして作ったサンドイッチでもあった。

……さぁ、昼休みのチャイムが鳴る頃には彼の教室に辿り着いていよう。
自分の分は購買に行ってパンでも買って、生徒会室でゆっくりと食べようか。
だって、自分のお弁当を持って教室を出たのに、違う物を持って戻るのはおかしいし。

 お弁当を取りに教室に向かっている時から、心臓は騒がしくなっていた。
変に緊張している自分を深く考える余裕もなくて、指先までの緊張を感じながらお弁当を手にして4組の教室の前に向かった。
チャイムが鳴って数分、壁に背を預けるようにして彼を待ってみた。
 もしかしたら、冗談のつもりだったんだけど、と言われるかもしれない。
本気にした自分が恥かしくなってしまうかもしれない。
だけど、反対もありうるかもしれないから。
あの時の彼を思い出し、お弁当を持った手に力を入れた。
教室から出てきた彼を見て、ここにいてよかったと思った。それと安心した。
この手に持っている物は渡していいんだと確信したから。
他に人に見られるのを怖く感じた私は余計な時間を取らないようにと彼の所へ行って差し出した。
「はい、サンドイッチ」
私の動きに流されるように受け取った彼は少し驚いた様子で言った。
「え?いいの?ホントに」
「うん、いいよ」
素直にそう答えたのに、なんだか彼は申し訳無さそうに言った。
「これって、春日の今日のお昼だよな?」
そこを気にされると困ってしまうので早くこの場から去ろうと思って言ったんだ。
「うん、適当に何か買って食べるからいいよ。じゃ」
「じゃ俺、昼おごるよ、悪いから」
背を向けて行こうとしたのにそう彼の声が飛んできた。少し慌てた様子の、いつもの彼らしくない声に思わず足を止めて、振り向いてすぐさま言った。
彼のそんな優しい気遣いに思わず笑顔になってしまう。
「いいよ、そんな気にしなくて。ね?」
だけど、その後に見た彼もいつもの彼らしくなくて。
「えぇと、今日一人で学食行く予定で、だから一緒に……」
そこまで言ってから彼の頬が少し赤みを増した。握った手の甲を口元に当てて、困ったような顔。それはまるで照れ隠しの仕草のようで、思わずそんな彼を見つめてしまっていた。益々困った顔をした彼を見て私の口は勝手に声を出していた。
「うん、いいよ」
それは真実の気持ちだった。
そんな彼を見たから出たんだと思う。
私の言葉を確かめるように顔を向けた彼に、私は笑顔を向けていた。
それはとっても不思議な気持ちだった。

2006.10.27


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