時の雫-風に乗って君に届けば

§9 向かい風に煽られて


Episode 8 /9




 夕飯を食べ終えて、二人は部屋でごろごろしている。
「なんかさ、いつの間にやらいい雰囲気になってるよな。お前」
「そーか?何も変わってない気がするけど?」
「そーかなぁ」
圭史はベッドを背もたれにして部屋のテレビでゲームをしている。
谷折はベッドの上にうつ伏せに寝転んでいた。
「でさぁ、一つ聞くけど」
「なんだよ」
「お前っていつから春日さんに惚れてんの?」
「さぁな、忘れた」
ゲームのコントローラーを動かしながら圭史はそう答えた。
後ろのベッドからはページを捲る音が聞こえたと思ったら、カサカサと紙の擦れる音がする。
「もう一つ聞くけどさぁ」
「今度は何だよ」
「何でこんなの持ってるの?やらしくない?」
「? さっきから何見てるんだよ?」
手を止めてベッドの上に顔を向けてみて圭史はぎょっとした。
「何ってお前の卒アルじゃん」
確かに谷折が開いているのは、圭史の中学の時の卒業アルバム。
だが、手に持っている物は茶色い封筒とそれに入っていた写真1枚。
「おまっ!何見てるんだよ!!」
取り返そうと手を伸ばしたら、それより早く避けた谷折。
一人楽しそうな顔をして圭史に言う。
「まさか隠し撮り?」
「ちげーよ!買ったヤツが番号間違えてて、たまたまそれだったんだよっ」
そう言いながら、谷折が手に持っているそれを奪い返そうとしている圭史に、谷折は尚楽しそうな顔をして言う。
「へー、そんな偶然ってあるぅ?」
「あったんだよっ」
圭史の手を避けながら、谷折は確認するようにその写真を眺める。
「まー初々しい中学時代の春日さん」
「返せっ」
やっと取り返したそれを元の茶色い封筒に仕舞うと、さっさと机の引き出しに放り入れた。初めて見る必死な様子の圭史。
ベッドの上に胡座をかいて座っている谷折は、楽しそうな顔をして口を開く。
「それを捨てられなかったという事は、その時既に惚れてたって事だろ。
うわー、瀧野君の意外な一面知ってしまったわー」
「お前、それが狙いで家来たんじゃないだろーなぁ!!」
「偶然偶然。俺がそんなずるい人間に見える?」
「そんな事わかるか!」
ムキになっている圭史を眺めながら、尚谷折は言う。
「普段すかした顔してるヤツがムキになってるの見るの好きだわー俺」
その台詞に幾分抑えることを思い出した圭史は、洩らすように言う。
「……お前、覚えとけよ?」
それにすら谷折は綽綽と答えるのだ。
「もう忘れるもーん」
「こいつ……」
その後、暫しプロレスらしきものが繰り広げられていた。



 客用の布団を敷いて寝る準備を整えると、圭史はベッドに入り谷折も用意された布団に潜り込んだ。
電気を消して眠りに着く準備が整っても、二人はまだ寝た気配がなかった。
「……なぁ、でも凄いな。一人の人ずっと好きなのって」
真っ暗闇で見えぬ天井を眺めながら谷折は言った。
「……自分の気持ちに目を向けたのは今の学年になってからだけどな」
「ふーん?……あ、そう言えば1年の時相田先輩と付き合ってたっけ」
「すぐ振られたけどな」
「へー振られたのかぁ。付き合ったのそれだけ?」
「……いや、中学の時に一人。初めての女。今じゃ何してるか知らないけど」
「へー」

長い沈黙の後、がばっと起き上がって圭史に体を向けると谷折は口を開いた。
「なぁなぁ、相手初めてだと苦労するって聞くけど、そんなに大変?」
頭の上で腕を組み目を向けると圭史は落ち着いたトーンで答えた。
「大変。すんごい苦労させられる。嘘じゃないだろうなぁと思うくらい忍耐必要」
それを聞いて、もそもそと布団の中に戻りながら谷折は声を出した。
「へーやっぱそうなのかぁ」

また沈黙があって、谷折が話し出した。
「……春日さんって、純情そうだよな」
「まぁ、あの様子だとその手の話は苦手そうだな」
「付き合う事になったらお前苦労しそうだな。いろんな面で」
「……どうだろね。そうなる前に今苦労してるんだけど」
「頑張れ。陰ながら応援してるわ」
「くれぐれも余計な事はするなよ?」
「……」
「返事しろよ」
「へい」
「……」
「……瀧野ってどこに惚れてんの?」
「なんで、そんな事聞くんだよ」
「いや、知ってる奴何人か春日さんに惚れてるけどさ、見てたら綺麗な花手元に置きたいっていうだけの感じがするんだよな。でも、瀧野はそういう感じがしないし、中学から一緒で春日さんのこと分かってそうだから」
「……どうかな。でも、春日のあの一生懸命な所には頭が上がらないけどな」
「そーかぁ」
「……もう寝るぞ」
「へい」
「……」